犬がいた季節
伊吹有喜著「犬がいた季節」読了しました。
本屋大賞2021ノミネート作の中で個人的に一番気になっていた作品です。
私の好きな青春小説ということもあり、期待していたのですが期待を大幅に上回る作品でした。
~あらすじ~
この作品は全6章で構成されており、1~5章は各年代(昭和63年度~平成11年度)の高校3年生の物語、6章は同窓会の話で構成されています。
高校で飼育されている犬・コーシローが、各年代の高校生に寄り添いながら物語が進んでいきます。
最後の共通1次試験、鈴鹿でのF1ドライバー・アイルトンセナの激走、阪神淡路大震災・地下鉄サリン事件、ノストラダムスの大予言といった、各年代の時事ネタをふんだんに盛り込まれており、この時代はこんな風に生活していたんだな…と想像しやすく読み進めることができます。
~こんな人に読んでほしい~
・青春小説が好き
・背中をそっと押してくれるメッセージがほしい
・温かい気持ちになる読後感を味わいたい
~感想~
今回初めて、伊吹有喜さんの作品を読んだのですが、 1章を読み終え「この作者さん・作品好き…!」っとなりました(笑)
コーシロー目線での語りが各章で展開されるのですが、犬目線での話をなぜ、あんなに優しい文章で表現できるのでしょうか…。
今作のキーワードは「18歳の青春」だと思います。
高校生活3年間は、短くも濃い時間を過ごすことになります。
コーシローは子供と大人の狭間で3年間を過ごす生徒たちを見守り・見送っていく…。
各章ごとにコーシローが見送る設定が、儚くも尊いなと感じました。
前述したように全6章中、5章分の高校生たちの物語があるのですが、私は1章の物語が一番好みでした。
あと少しの頑張りができない女子高生・塩見優花と美大志望のクールな早瀬光司郎の甘酸っぱく、もどかしい物語に心がキュッとなります。
また、優花の「何物でもない自分に絶望するのが嫌だ」、「飛び抜けて優秀ではないが、まったくできないわけではない」というように自分に自信がなく、挑戦をしない性格が私自身の高校時代と重なりました…。
他の章でも友情・家族・アイデンティティなどの悩みにもがきながらも、青春を謳歌する話がふんだんに盛り込まれています。
コーシローと高校生たちの優しい物語、ぜひ手に取って読んでいただきたいです!
~印象的な文章~
見えていたものが見えなくなるとき。それは新しいものが目に映るときー。
コーシローが卒業していく高校生を見送る際に出てくる文章です。
高校時代の生活に別れを告げ、ひとつ大人になり卒業していく高校生たちを表現しており、私は見えているものが見えなくなることは否定的なことだと思っていました。
しかし、この文章を読んで見えていたものが見えなくなることは、次へと目を向けている過程なのだと感じました。
今作はハードカバーの本なのですが、読了後にぜひカバーを外して表紙を見ていただきたいです。この本はハードカバーでないとダメな理由がわかり、感動すること間違えなしです!
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